リコーダーについて


tutuメンバー郡史郎氏による、「世界最古とされるリコーダー奏法解説書『フォンテガーラ』(1535年)の日本語訳および注釈」を下記WEBサイトに掲載しております。ご興味がおありの方はぜひご覧ください。


~A・ロウランド・ジョーンズ 著

『リコーダーのテクニック』から(西岡信雄 訳)~

●ソプラニーノ:F管 (トレブルより1オクターブ高い)

トレブル・リコーダーより1オクターヴ高いソプラニーノ(F管)は"愛すべき"かわいらしい楽器であるが、その利用度はかぎられる。Handel、はこの楽器を"fauto piccolo",Vivaldiは'ottavino,という名前で呼んでいる。
Vivaldiがこの"Ottavino"のためにコンチェルトを3曲書いているほか,しばしば鳥の声の模放として歌(ソプラノ)をオブリガートした作品が多い。ソプラニ-ノはデスカントにくらべ,平均して音量に乏しいが,高音域の音はかなり大規模な弦楽合奏にもたちうちする音勢がある。

ごくわずかであるが,オリジナルのリコーダー・アンサンブル作品やその他の編曲作品にもソプラニーノの演奏曲目としてあげられるものがある。

ソプラニ-ノはふつう1本の部分で作られることが多い。管の内径が非常に細いので管の中のそうじにはキセルやパイプのそうじに使うクリーナーなどを使う必要がある。ただ・パイプ・クリーナ一のかたい軸金でプラグをつきあげないように充分注意する。

指先の比較的太いひとは,この楽器を演奏する場合トリルなどで指がかさなり,いろいろとフィンガリングが混乱することがある。

●デスカント(ソプラノ):C管 (トレブルより5度高い)

デスカント・リコ-ダ-(トレブル・リコーダーより5度高いC管)は,値段の安いことや教育楽器としての使いやすさなどから広く普及している楽器である。

この楽器は別名"ソプラノ"と呼ばれて,18世紀のコンチェルト作品に見られるいわゆる"sixth-flute”,(トレブル・リコーダーに対して6度上のD管)にもっとも近い現代の楽器としての利用度があることも知られている。

しかしなんといってもデスカント・リコーダーの重要な役割は,リコーダー・アンサンブルにおける上声部あるいは"リード'楽器としての存在である。デスカント・リコーダーは,どうしても他の音からぬけてかん高く響きがちなのでアンサンブルの中では特に息圧のコントロ-ルがむずかしい。また,音程や音の安定性にも無理が多く,特に高音域になると我慢できないようなかん高い響きになる。しかし,アンサンブルにおける重要性を考えれば,この楽器の演奏を修得しておくことは非常に貴重である。

●トレブル(アルト):F管

トレブル・リコ-ダ-は音色的にもっとも中庸であり,これより小さい楽器では音色がかん高く響き,逆にこれより大きい(低い)楽器では音色や響きに欠陥が多い。

このトレブル・リコーダーが一般に"フルート"として知られていた。リコーダーを使ったバロック時代の作品,たとえばbachの"Brandenburg Concert No.2"やHandelの"flauto"のためのソナタなどの原譜には,たんに"フルート"としかしるされていない。したがってこの本の後章はすべてトレブル・リコ-ダーに関して解説されている。最近ではリコーダーヘの導入として最初にデスカント・リコーダー(C管)から吹き始める人も少なくないが,やはり,将来ソナタや室内楽で他の楽器と合奏しようと思う人であればトレブル・リコーダーから練習を始めることがどうしても必要である。

●テナー:C管 (トレブルより4度低い)

テナ-・リコ-ダ-と呼ばれるC管の楽器は、トレブル・リコ-ダーより4度低い。

指の開きが非常に大きくなるのでたいていの楽器はフット・ジョイントのホールにキーをつけて小指がとどきやすくしてある。ただこの場合,低音のC♯が演奏できない欠陥があるので,さらに半音のダブル・キーをつけた楽器もある。また指の開きを少しでも楽にするために,ホールを一直線上に並べずに横へずらすこともできる。ただしこの場合に楽器の美観が犠牲になるのはやむを得ない。おなじ目的で,ホールを管に対して斜めに開けた楽器もある。

テナー・リコーダーは美しい音色が比較的だしやすい楽器なので,特にアンサンブル演奏をめざす人にはバス・リコーダーがない場合このテナー・リコーダーから練習を始めることもすすめられる。逆に音量のとぼしさという点から独奏には適していない。たとえばピアノで伴奏をした場合,ほとんど音量的に圧倒されてしまうおそれもある。

●バス:F管 (トレブルより1オクターブ低い)

リコーダー奏者として広範囲にアンサンブル活動を求めるならば、さらにバスリコ-ダ-(F管、トレブル・リコ-ダ-より1オクタ-ブ低い)を持っていることがどうしても必要だろう。

デスカント,トレブル,テナーだけのリコーダー・アンサンブルにバス・リコーダーが1本加わるだけで音の響きは驚くほど豊かになり,さらにアンサンブルにイントネーションの安定性ができる。つまり全体の響きに"まとまり"をつけてくれるのがこのバス・リコーダーである。

音量的には弦楽合奏やピアノ伴奏で完全に消される弱さがあるが,リコーダーだけのアンサンブルの中ではかなり大編成の中でたった1本のバス・リコーダーの存在でも非常に大きい。
 バス・リコーダーには,バスーンのようにクルーク(吹き口から楽器本体までをつなぐ金属管)のついた形式の楽器と,テナー・リコーダー同様に本来の縦笛形でただフィンガリングを楽にするために管の途中をやや湾曲させたものと2種類ある。後者の形式は特に"ニック・システム"と呼ばれている。いずれの形式でも最低音には必ずキーがついていて,その他の音でも指の開きが大きいところには替え指としてキーをつけてあるものが多い。しかし一般的にいって,キーの数は少ないほうが望ましい。キーが多いほど木管の響きをそこね、操作中の雑音も大きくなる。そのほか整備・調整の手間や,楽器の簡素な美観をこわすことも考えなくてはならない。
 

バス・リコーダーには常にナシ(pearwood),いちじく(sycamore)のような軽い木材が使われる。バス・リコーダーはほかのリコーダーに比べてかなり息の量を必要とするので,息を大きく吸って完全なフレージングで演奏することがまず重要な課題になる。低音部記号の楽譜を読むことは少し慣れてしまえば演奏上さして苦労することはないが,それを音楽的に演奏するにはやはり奏者の"音楽性"が求められるだろう。

●グレートバス:C管 (テナーより1オクターブ低い)

テナー・リコーダーよりさらに1オクターヴ低いグレ-トバス(C管)は英国では現在まだ普及していない楽器であるが,ドイツではAdler,Moeck,Stieberといったメーカーから"グロス・バス"という名前で製造されている。

グレートバスは管長が約1メートル30センチあって,吹きロはクルークで本管と接続している。すわって演奏する場合にはチェロのようにスタンドを立てて楽器の重量を床で支えるようになっている。立って演奏する場合にほテナー・リコーダーのように吊り紐で楽器を支えられる。指で直接ホールをふさぐのは両手中指の2本だけで,あとのホールはすべてオープン・キーで操作される。したがって指の開きがテナー・リコーダーよりひろがることはない。

グレ-トバスはリコーダー・アンサンブルの中でF管のべ-スでは音域が低すぎるような場合に主に利用される。音量もF管のバスより大きいのでアンサンブル全体の中で低音進行の響きがはっきりする,音域もF管のバスと同様3オクターヴ演奏可能であるが,最高音域のいくつかの音はピーピーいって音程にならないことが多い。反対に低音域の音は期待にこたえるだけの深みのある響きが得られる。ただ時々"鳴り始め"が遅れる傾向はやむを得ない。しかしこの楽器の最低音ですらヴィオラの最低音とおなじ音域にしか過ぎないのにはちよっと意外な感じがすることだろう。つまり,リコーダー属に共通した特性として実際に鳴っている音より1オクターヴ低く聞こえるという音響学的な現象(高次倍音がでないために起きる)が,このグレートバス・リコーダーの場合特に頗著に現われるからである。

●コントラバス:F管 (バスより1オクターブ低い)